日々徒然

2019年11月07日

弁護士 入江秀子が日々の雑感や感じたことなどを綴って参ります。

 

例えば、

別居している夫婦のうち、夫がローンを支払っている家に妻子が住んでいる場合、


夫から妻に支払う婚姻費用の額を決めるに当たり、

夫が支払っているローンの金額をどのように考慮するか
という問題があります。


以前までは、諸説ありましたが、

最近は、妻の収入に見合う標準的住居関係費(以下、「住居費」と言います。)を
住宅ローンを考慮せずに算出した婚姻費用額(算定式で計算した婚姻費用額)から差し引く、との方法が定着しているようです。


住宅ローンは、財産形成の趣旨が大きいことから、妻の家賃を負担していることとは同義ではありません。


したがって、算定式で計算した婚姻費用額からローンの支払額をそのまま差し引くことは認められません。


もっとも、夫がローンを支払っているために、妻は家賃がかからず住むことができます。
そこで、婚姻費用の算定の際に、実際の収入から控除している住居費を双方で調整しようというのが、上記の考え方です。

 

では、なぜ、算定式で計算した婚姻費用額から、婚姻費用を貰う側の収入に見合う住居費を差引くのでしょうか。


以前の説では、婚姻費用を支払う側の収入に見合う住居費を差引くとの考え方もありました。
ただ、この点は、次のように理論的に説明できると思います。


即ち、妻の基礎収入額を計算するうえで、

差し引いた住居費を妻の基礎収入額に戻し、
夫の基礎収入額から妻の住居費相当額を差し引いて、

これを婚姻費用の算定式に当てはめると、


控除せずに算定した婚姻費用額から単に権利者の住居費を控除した金額と同額になるからです。

 

夫の基礎収入を(夫の基礎収入-住居費)とし、妻の基礎収入を(妻の基礎収入+住居費)とした場合、


婚姻費用の計算は、

 

{(義務者の基礎収入-住居費)+(権利者の基礎収入+住居費)}×(権利者の指数+子の指数)÷(世帯の指数)-(権利者の基礎収入+住居費)

 

となるところ、これを計算すると、

{}内は住居費が相殺されるため(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)と同額になり、


結局、最後の項の「-(権利者の基礎収入+住居費)」の部分のみ、通常の算式と異なることになり、
結果として、通常の婚姻費用額から住居費を差し引けば良いことになるからです。

 

ここまで説明されている文献はあまりないようですが、
変則的な事例に応用する場合、不十分な理解では対応できないこともあると痛感しました。

 

※「基礎収入」の概念については、一般的な文献で紹介されていますが、また別の機会にご説明します。

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